2024年度公開講座受講体験記(社会人・Web3業界関係者)
- shibano
- 2月26日
- 読了時間: 6分
1. 自己紹介
私は現在、Algorandというレイヤー1ブロックチェーンの日本コミュニティで、公式Discordの管理者を務めているaperです。コミュニティには約400名のユーザーが在籍しています。90年代後半からインターネット上のテキストチャットコミュニティに親しみ、ユーザーとして技術に触れる機会が多くありました。本格的にクリプト業界に関わり始めたのは2021年です。
クリプトの知識に関しては、特に所属チェーンの仕様や技術について概ね理解しています。IT全般の知識はITパスポートや基本情報技術者レベルで、開発には直接関わっておりませんが、エコシステム内のプロジェクトの7~8割を把握し、成功・失敗事例を分析した上でプロジェクトにアドバイスを行うことも多いです。日本での過去の活動では、国のTrusted Webの実現に向けたユースケース実証事業においてブロックチェーンの応用分野に関するプロジェクトのメンバーの一員として参加した経験もあります。
2. 受講動機と期待
所属チェーンの強みや課題を説明する際、Ethereumをはじめとする他のチェーンとの比較が不可欠だと感じていました。Algorandについては、メインネット立ち上げ当初からエコシステムに関わる中で段階を踏んで理解を深めてきましたが、BitcoinやEthereumのような歴史あるチェーンは情報が膨大で、どこから学び始めるべきかわかりませんでした。
そんな中、日本語で体系的に学べるうえ、オンデマンドで受講できる本講座を知り、良い機会だと思い受講を決めました。
受講にあたっては、他の受講生から講座の難易度に関する懸念の声が多く聞かれました。私自身、情報セキュリティや暗号学の基礎知識があったため、技術的な内容にはついていけると考えており、その点での不安はありませんでした。ただ、講義内容にdAppsの開発やグループワークが含まれていたため、「開発を目的としていない自分が受講してもいいのか」と迷いました。同じように「プログラミング経験がないが大丈夫だろうか」と不安を抱える受講生も多くいました。
3. 講座内容と体験
結果として、受講前の懸念は杞憂でした。オンデマンド受講だったため、自分のペース・好きなタイミングで必要な内容だけを学ぶことができました。
講座の難易度は非常に高く、理解に時間がかかる部分もありましたが、Solidityの具体的なコードの書き方など「自分にとってここは流しても大丈夫」と判断した箇所は飛ばし、逆にEthereumの仕様に関することなどしっかり理解したい部分は映像を繰り返し視聴したり、ChatGPTに説明を求めたりすることで、メリハリをつけて学ぶことができました。Discord上に受講者コミュニティがあるため、受講者同士で確認し合うこともできます。
グループワークや知識定着のためのテストも用意されていましたが、私はインプットを重視していたため、参加しませんでした。一般的な学校教育や資格試験ではアウトプットが求められますが、本講座ではそれが必須ではなく、気軽に受講できた点も良かったです。
私にとってEthereumについて学ぶことは非常に有益でした。他のチェーンのユーザーに向けてこの講座の価値を説明するとすれば、「なぜETHの市場価値が圧倒的に高く、他のチェーンが追いつけないのか」を理解できる点が大きいです。インターネット上では「Ethereumより優れたチェーン」について語られることが多いですが、「なぜそれらのチェーンが市場でEthereumを超えられないのか」という視点はあまり語られません。Ethereumについての内容を通じて、その「説明されない行間」を自分なりに読み解けたことは大きな収穫でした。
講座全体の課題として、受講者は自由に学べる環境にありますが、本講座の目的の一つには「Web3開発者や、そのスキルを持つ人材の育成」があります。そのため、グループワークの内容もdAppsの開発が中心で、「Web3サービスを考え、作ってみよう」というアプローチが取られています。
ただ、その教え方が技術者目線に偏っており、「サービスが開発できるかどうか」には主軸が置かれている一方で、「プロジェクトが成功するかどうか」の視点が弱い点が気になりました。実際、一般の人が考えつく多くの新しいサービスはすでに開発され、その後倒産や破綻を経験しています。Web3の分野ではそうした失敗事例が多く、それらから学べることも少なくありません。特に開発はできてサービスがスタートしても使われないためにメンテナンスコストをペイできずに破綻するプロジェクトが多いのが現実です。そのため、講座の前半でプロジェクト運営に関する基礎を学び、その後に開発へ進む流れにした方が、より実践的な学びにつながるのではないかと感じました。
4. 受講後の変化
受講前は、初心者と関わる機会が多いため初心者をどのようにオンボードさせるかに関心がありましたが、受講後は考え方が大きく変わりました。必ずしも自分で全てをやる必要がないという視点に気づき、初心者にブロックチェーンや暗号資産について説明する際、「東京大学ブロックチェーンイノベーション講座が無料で開講されているので、興味があれば受講してみては?」と案内できるようになりました。この分野は投資が絡むため、中立的に説明しても「この人はAlgorandに忖度しているのでは?」と疑われることがあります。しかし、運営のバックグラウンドの分からない怪しいセミナーを紹介するわけにもいきません。本講座を紹介することで、私自身の信頼を損なうことなく、初心者に正しい情報を提供できるようになりました。
また、本講座を通じて、ブロックチェーン・暗号資産分野の熱量の高さを改めて実感しました。講座の内容は高度ですが、投資という経済的要素も関係しているため、さまざまなバックグラウンドを持つ数千人規模の受講者が集まったと聞きました。他の分野で同程度の技術レベルの講座が開かれた場合、専門知識を持つ受講生が30人ほど集まれば良いほうでしょう。それほど、この分野への関心が高く、層の厚い分野であると感じました。
プロジェクトにとって「何故このチェーンを選定するのか」というのは非常に大事なことです。Algorandの説明を行う時にEthereumなど他のチェーンと相対的にメリットデメリットを紹介できるようになったことは大きな収穫でした。
5. これから受講を検討している方へのメッセージ
本講座では投資の話は一切出てきませんが、「自分が何に投資しているのか」を深く理解できる内容になっています。技術者だけでなく、ブロックチェーンや暗号資産に関わるすべての人にとって有益な講座です。一方、チャート分析の知識だけを得たい人や、自分の所属チェーンを他者に勧めることが目的の人には向いていません。
講座の内容は難しいですが、細かい部分を完全に理解する必要はありません。「こういう仕組みなんだ」と大まかに捉えるだけでも、受講前と後で見え方が変わるはずです。前提知識があればより深く学べますが、ゼロからでも十分に意義のある内容になっています。ぜひ、ブロックチェーンの学びの第一歩として受講してみてください。