2025年度公開講座受講体験記(学生)
- shibano

- 2月27日
- 読了時間: 8分
受講をおすすめしたい方のタイプ
本講座の受講を強くおすすめしたい方は、ブロックチェーンに関係する技術や仕組みについて知りたい方です。ソフトウェアエンジニアだけでなく、ブロックチェーンの社会実装や応用に関心がある方にとって、基礎から学ぶことは大いに役立つはずです。後述するように、学習コミュニティは初学者にも非常にやさしい場でした。また、万が一自分に合わないと感じた場合は途中で離脱することも可能ですので、少しでも迷っている方は、ぜひ最初の数回の講義に参加してみることをおすすめします。
一方で、本講座にマッチしないのは「ブロックチェーンの技術的な側面には興味がない方」です。例えば、暗号資産の売買による投機的な利益に関心があり、技術そのものには関心がない方にとっては、期待する情報は得られないと思います。ただし、すでにトークンなどを保有している方には、ブロックチェーンのセキュリティについて学ぶことは有益です。受講することで、ブロックチェーンにおいて個人のデジタルな所有権が暗号学的にどのような仕組みでセキュアに担保されているのか、そして自分の秘密鍵をどう守るべきかを体系的に理解できると思います。
自己紹介と受講の動機
東京大学大学院工学系研究科の博士課程に在籍している平田駿輔と申します。私は現在、ブロックチェーン技術を活かした寄付・贈与システムの研究に取り組んでいます。
私は、収益性が低いために市場から取り残されている課題、いわゆる社会課題の解決に強い関心があります。そのため、例えば私は非営利事業を開発しながら NPO 法人の起業を目指していたり、寄付は社会課題の解決のための良い手段であると信じて時々寄付をすることを心がけたりしています。しかし、実際の寄付の仕組みにおいては、「自分の寄付金が誰の何に使われているのか不透明」「手数料が高い」「効果が不明瞭」といった大きな障壁をしばしば感じており、これらが寄付への心理的なハードルとなっているのではないかと考えています。
そこで私は、ブロックチェーン技術の活用、例えばイーサリアムのスマートコントラクトを上手に設計することによって、手数料が安く透明性の高い寄付システムを作れるのではないかと考えました。 この着想をもとに、博士課程では「ブロックチェーン×寄付」という領域で研究を進めることにしました。
しかしながら、私はそれまでブロックチェーン技術について体系的に学んだ経験がありませんでした。そこで、ブロックチェーンの基礎から最新の動向までをキャッチアップし、自身の研究活動の土台を築きたいと考え、2025年に本講座を受講しました。
講座の期待と受講の目的
研究テーマとしてブロックチェーンの応用を見据えていたため、一人で研究を進められるレベルの基礎を修得することが、本講座を受講する最大の目的でした。具体的には、以下の3点を期待していました。
スマートコントラクトや暗号資産、分散台帳といった中核技術を学び、開発の応用スキルを身につけること。
ブロックチェーンや暗号学の研究者・開発者と出会い、ネットワークを広げること。
共に学ぶ友人や仲間を見つけること。独学よりも学習を楽しく続けられるからです。
受講するにあたって特段の不安はありませんでしたが、強いて言えば、ブロックチェーンの研究を形にできるだろうかという漠然とした不安はありました。しかしながら本講座の受講を経て知識を身につけることができ、おかげさまで先日ブロックチェーンの国際会議に論文を投稿することができました。論文執筆において、本講座で学び得た知識が大きく活きたことは言うまでもありません。今後もブロックチェーン・暗号技術を活かした寄付システムの研究を進めていきたいと思います。
講座について
講座では、週に1回、約1時間半の授業として実施され、東京大学本郷キャンパス内の講義室で行われました。授業は全てYouTubeでもライブ配信されたため、遠方から参加することもできました。その上、授業の録画も提供されていました。 つまり、オンデマンドで、好きな時に好きな場所で講座を受講できるという素晴らしい学習環境が提供されました。私にとって、オンサイトの授業と録画の提供はとてもありがたかったです。 私は授業に遅刻・欠席をしたり、疲れてうたた寝をしてしまうことが多々ありましたが、録画でキャッチアップすることができました。ちなみに、私はほぼ全ての授業に対面出席させていただきました。
また、講座の途中と最後には、理解度を測る選択問題形式のチェックテスト(中間試験・最終試験)がありました。この仕組みは非常に効果的でした。私はチェックテストで良い点を取りたいと思い、すべての授業録画を倍速で見返して復習をしました。もしチェックテストがなかったら復習もおろそかになっていたことと思います。 テストのおかげで授業で学んだ知識の定着が大変深まりました。なお、テストで好成績を収めることは必須ではなかったと思います。テストの成績に応じて、公開講座オリジナルのNFT (SBT)が付与されたのですが、これもおもしろい体験でした。講座を受講するまで、私はNFTなどのブロックチェーントークンを扱うウォレットソフトウェアを使ったことがありませんでしたが、受講をきっかけに自分のアカウントを作成してNFTを受け取りました。ウォレットソフトウェアについては授業で学ぶことができます。授業で学んだ概念や技術要素をハンズオンで体験できる良い機会となりました。
学習コミュニティについて
受講生が交流できる機会としてはオンラインチャットツール (Discord) を用いたチャットスペースと、授業後の講義室内、そして年に2回開催された、発表会(本郷キャンパス構内とYouTube配信のハイブリッド)と直後の懇親会(こちらはオンサイトのみ)がありました。
印象に残っているのはDiscord上のチャットスペースが思いのほか良い雰囲気であったということです。 受講生がチャットで質問をすると、知見のある他の受講生や講師の先生方が回答して解決のサポートをしたりするなど、メンバー同士がお互いリスペクトしながら学習を共に進めていった感覚がありました。私もこのチャットスペースを積極的に活用させていただきました。他の受講生の方にわからないところを教えていただいたり、私のアイデアについてご相談させていただいたり、 他の方のアイデアに関しても意見交換をしたりできました。受講生の中にはエンジニアでなく、ソフトウェア開発を専門としていない方も多くいらっしゃるようでした。例えば、ターミナルを触ったことがない方にとってはハンズオンのスマートコントラクト開発学習などはハードルが高いと思いますが、そういう方もチャットスペースで質問をすることで問題を解決なさっていたように見受けられました。
発表会と懇親会では、受講生が本郷キャンパスに集まり、個人発表や後述のグループワークの成果発表、ディスカッションをし、そのあと食事を楽しみながら受講生と審査員の先生方と交流しました。とても良い機会でした。Discordのオンラインチャットスペース上で交流した方と直接お会いしてご挨拶する嬉しい機会にもなりました。
率直に言うと、最初の頃は私は他の受講生との交流に慎重になっていた部分もありました。ブロックチェーンや暗号資産という分野の特性上、「投資目的や勧誘目的の人もいるのではないか」と少なからず不安を感じていたためです。しかし、継続して参加する中で、この講座を離脱することなく受講し続ける方はおそらく心からブロックチェーンの仕組みそのものに関心があって学びたい人ばかりであることに気づきました。現地参加をしていた私は毎回同じ受講生の方とお会いして顔見知りになったので、警戒しすぎずもう少し早く話しかければ良かったなと思っています。
グループワークについて
最終試験(2度目の理解度チェックテスト)のあとは、1-2ヶ月間のグループワークがありました。これは希望する受講生だけが参加するアプリ開発ワークのことです。私は5人グループの一員となり、次の2つの機能を開発しました。1つ目は、ステーブルコイン(法定通貨などの資産に価値が連動するよう設計されたブロックチェーン上のトークン)で透明性の高い寄付ができるスマートコントラクトです。2つ目は、受益者のプライバシーを確保する秘匿寄付プロトコルであり、資金提供者にだけ寄付金の行方を開示すると同時に、寄付金の一連の送金データ自体は暗号化されて第三者に見られない送金システムを実装しました。
グループワークの参加者の中には、ソフトウェアエンジニアの方も、そうでない方もいらっしゃいました。多様なバックグラウンドを持った参加者がグループをつくり、どういう課題を解決し、そのために何をつくるかを話し合って決め、実際に手を動かして開発をして発表をするという一連の活動は、貴重で実り多いものとなりました。嬉しいことに、私たちのグループは発表会を終えた今でも細々と活動を続けています。
学べる内容
講義の内容で、私にとってとくにおもしろかったもののキーワードを列挙します。学べるのはこれが全てではなく、もっと幅広い知識を体系的に習得できます。
ビットコインプロトコル、特にUTXOトランザクション、Nakamotoコンセンサスアルゴリズム、UTXOのデータ構造
イーサリアムプロトコル、特にPoSの仕組み、ステートの管理方法
暗号理論:ハッシュ関数、離散対数問題、公開鍵暗号方式、楕円曲線暗号、zk-SNARKsの基礎と応用例 (Zcash) など
弁護士によるWeb3の法規制の解説
クリプトエコノミクスとトークノミクス
スマートコントラクトやゼロ知識証明技術を用いたアプリケーションのプロトタイプ開発は、大規模言語モデル (LLM) を活用すれば一人でもそこそこできると思います。


